はじめに

 井伊美術館は、甲冑・刀剣史学研究家である井伊達夫館主が調査のため研究寄託を受けた歴史的遺品などを所蔵者の理解を得て一般に展覧する 、我国でも唯一といってよい甲冑研究考証の美術館です。資料における歴史や 由緒の係わりを尊重し、その考証に力を注いでいます。
 館主はこの趣旨を早くから抱き、平成11年夏の開館以来足かけ16年、毎年テーマを決めた特別展を好評のうちに開催して参りました。今後も刀剣・甲冑のみならず、歴史や武道に志す人々の楽しい談議所にしたいという気持ちです。     (2015/01)
井伊美術館の特色

日本の鎧兜・刀剣のみならず、馬具、陣営具及び記録に基いた戦史・兵法等、博く資料を採訪し、研究と発表を続けています。近年、その範囲は日本のみならず亜細亜、欧羅巴の武器甲冑に迄及んでいます。
半世紀にわたってこの仕事を続けてきましたので、確実性のある評価・鑑定機関として認識されています。物件により、甲冑武具、歴史文書史料類を鑑定致します。

詳細については下記リンクもご覧ください。
                  (2015/07)
日本甲冑史学研究会
過去の主発見紹介資料一覧

大阪夏の陣 木村重成隊部将
山口左馬助弘定所用兜
(井伊直孝隊八田金十郎知當討取)
調査研究の範囲
井伊達夫先生のこと
 

 このたび、井伊達夫先生の長年に亘る広範かつ膨大な歴史研究のご成果、なら びに作家としてのご労作をまとめて世に送られますことを、心からお慶び申し上げま す。
 井伊先生と私との出会いは、ごく最近、息子がたっての願いで先生のもとに弟子入りを許されたのに始まりますが、むしろ初対面のときから私が先生の人となりに強 い感銘を受けたのに始まると云うべきでしょう。
 「人は、今の今、命を生き切らなければならない」「怪力乱神を語らず」という人生哲学を貫いて来られた生きざまを語られるとき、その声は安閑として過ごしてきた私 ごとき者には、一喝の響きを持って迫ってきます。先生の口からほとばしり出る一言 一言の持つ意味の重さと、奥行きと、人の心を突き通すような鋭さは、人をして軽々に聞き流すことを許さないものがあります。
 井伊先生は歴史家であり、わが国における刀剣甲冑研究の最先端を行く人とお見受けしています。井伊家関連資料を中心とした豊富な史資料とその緻密な分析に 基づき、生き生きと今日的関心と問題を浮かび上がらせる歴史考察は、専門を異にする私ではありますが、ただただ脱帽するばかりです。
 私は「声明」という仏教の伝統的儀式で唱える経典や讃歌を、音楽として研究するのが専門ですが、一見遠くはなれ領域でありながら、風雪と試練を経て今日に至る までの歴史を背景にしているという点で共通の土台を持っています。
 井伊先生は、私の「甲冑武具は己を守る防具」と云うこれまでの思い込みを根底からくつがえされました。甲冑武具には、人間が全うしようとする強烈な願いが込められており、そこには哲学と宗教があることを教えられました。
 そこには防具から美の世界への展開を飽くことなく追い求める姿がありました。
 武術に通達しておられる井伊先生が「武術の極意は、己を無にすることである。そうすれば、相手と向かい合ったとき、全てのことが見えてくる。それは道元や親鸞が 、己を見つめ抜いて行きついたところが共に己を無にすることであったのと同じでは ないか。心を無にすることによってはじめて心を開放し、自由に遊ばせることができ る」と熱っぽく語られるとき、氏は正に哲学者であり、同時に宗教家であります。
 そして先生の文学作品や対話の中で、人の心を見抜く洞察眼が、このような武術観と人生観に根ざしていると拝察するとき、人の生き方の指南としてのその人柄に大きな魅力を感ぜずに入られません。
 この御書を一つの節目とされまして、先生のご研究が今後ますます発展されますことを心からお祈り申し上げます。

                                      大谷大学名誉教授 岩田 宗一
                                      (「剣と鎧と歴史と」
(平成11年刊)巻頭文より)
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