開催の言葉

 多少なりとも甲冑に興味があったり知識を持つ人はともかく、全く予備知識のない人が「甲冑武装の正と奇」と聞いても具体的なイメージは湧かないのかもしれません。そういう人でも例えば「朱具足」と聞けばディテールはともかく、なんとなく想像はつくと思います。では、一体どういった鎧や兜が「正」なのか、何が「奇」であるのか、文章でいくら読んでも理解するのは難しいでしょう。その「正」と「奇」―これは「正統」と「異端」という言葉に置き換えてもいい―をビジュアルでわかりやすく、かつ圧倒的なボリュームで表現できないものか、というのが本年の展示の趣旨と言ってしまえば簡略すぎるでしょうか。
 昨年の大河ドラマの件ですが、岡田准一の黒田官兵衛はおそらくお椀をひっくり返した形の兜を着用していたはずです。ドラマの中ではもしかしたら大水牛の脇立が付いた桃形兜も登場したかもしれません。時代劇には縁遠く初めて目にする人にとっては「ナンだ、あれは」と思った人もいるはずです。つまり、それが「奇」なのです。
 しかしここでひとつ付け加えておかなければいけないのは、遺された資料から各時代のヨロイカブトの変遷を辿ることができる後世の私たちと、実際に登場したその時代に生きた人々では感覚が違うであろう、ということです。我々は各時代、地域などいろんな要素を比較したり同じ一冊の本の中で並べて見ることもできます。しかし当時の限られた情報の中で、自分の概念にはない形の鎧や兜を初めて目にしたときの衝撃は、我々の比ではありません。そのインパクトは相当なものであったはずです。
 展示においては難しいことは横に置いて、大鎧・胴丸・腹巻、あるいは星兜・筋兜といった「正統」と、変り兜や仁王胴といった「異端」を一堂に展観します。当館では平成十五年に「武門のステイタス 式正と異風と」をテーマに特別展を行いました。ちょうど干支が一巡し十二年を閲した本年、多くの新発見資料を交えて新たな形でこのような特別展を開催できるのは何よりの慶びでもあります。フォーマルな「正」の甲冑の威厳に歴史の重みを感じると同じく、ウワッ、何とこれは・・・とその着想に驚くカジュアルスタイルの「奇」の兜にも改めて注目、日本文化の多様性をみていただくと嬉しく思います。
 また、パネル併催として新発見資料の吉田松陰自筆の辞世を中心に、安政の大獄~桜田門外の変へ至るまでの関連資料のコーナーも設けました。これも当館の多様性の特色です。
                              
                 
                

主展示品目録  ※印 館蔵品、無印は外部借用品

【甲冑武具類】
  紺糸威大鎧(総覆輪筋兜―室町時代) 〈尾張徳川家伝来〉
  赤韋威大鎧 〈尾張徳川家老臣大道寺家伝来〉
  小桜威大鎧 (平安時代復原) 〈都城島津男爵家伝来〉
  藍韋威大鎧 (御嶽神宝復原) 〈小野田光彦作〉
  紫裾濃大鎧 (御嶽神宝復原) 〈小野田光彦作〉
  紅裾濃腹巻
  紺糸威胴丸 〈彦根井伊家伝来〉
  紫糸威本伊予札腹巻(背板添え) 〈上杉家伝来(伝・上杉謙信所用)〉
  小桜韋威腹巻(幕末異製)
  浅黄糸威最上胴丸 〈毛利家伝来〉
  緋威毛引胴具足
  紺糸威碁石頭胴朱具足(白毛頭立兜付) 〈伝・井伊直惟所用〉
  紺糸威山道頭鉄胴具足 〈豊後臼杵藩稲葉家伝来〉
  紺糸威南蛮胴朱具足 〈飯田藩堀家伝来〉
  紺糸威和製南蛮鉄胴具足(置手拭兜付) 〈佐竹家老臣戸村家重代〉
  紺糸威鉄胴具足
  紺糸威虎図蒔絵鳩胸胴朱具足
  紺糸威乱髪兜斜綴胴具足 〈伊予大洲藩加藤家伝来〉
  紺糸威仁王胴具足
  白糸威腰取碁石頭胴具足〈伝・細川家伝来
  紺糸威鋲打鉄胴具足(置手拭兜付)
  浅黄糸威加賀具足
  一枚張星兜(鎌倉時代) 〈関保之助旧蔵〉
  二十四張星兜鉢(鎌倉時代)
  六十二間筋兜(明珎信家作・永正十五年) 〈浅井長政所用・中村対松軒旧蔵〉
  十六世紀スペイン製冑 〈総見院旧蔵(伝・織田信長所用)〉
  四十八間総覆輪ニ方白阿古陀形筋兜 〈越前老臣山縣家伝来(伝・武田信玄所用)〉
  割り瓢箪形兜〈山上八郎旧蔵
  長烏帽子形兜(尾張徳川家復原) 〈加藤清正所用写〉
  金長烏帽子形兜 〈前田利家所用写〉
  朱塗頭形兜 〈井伊直孝所用(松山藩犬塚家伝来)〉
  朱塗白総髪兜  
                        その他
【刀剣類】
  大長巻拵
  大身槍 吉廣小出吉親所用
                       その他

常設展示品目録
  陣鼓 〈井伊直政所用〉
  朱地金井の字背負旗
  薙刀拵 〈黒田家伝来〉
  薙刀拵 〈柳生家伝来〉
※ 婚儀用駕籠 〈 肥前小城藩鍋島家伝来〉
  金高蒔絵飾棚 〈鹿児島島津家伝来〉
※ 青銅製大砲 銘「勇」 〈徳川斉昭製銘刻印入〉
※ 鉄製ホイッセル大砲 〈水戸徳川家製〉
  百匁玉火縄大筒 〈肥後細川家伝来〉
  百匁玉火縄大筒
  鉄製大燭台 〈伝佐和山城千畳敷〉
  真鍮製大燭台 〈彦根城表御殿所用〉
  文珠菩薩坐像(平安時代前期)※
  釈迦如来坐像(平安時代) 〈 井伊家伝来〉
  観世音菩薩 (平安時代) 〈井伊家所縁・龍泰寺伝来〉
  加藤清正像 〈源光敬作〉
                       その他

   ★NEW
    
新発見資料コーナー           
   

    ・吉田松陰辞世
    ・井伊直弼絶筆
    ・井伊直弼艶書(村山たか女宛)

                
(複製)
   その他
    ・井伊直弼素振刀 
    ・日下部三郎右衛門所佩大小の刀(桜田事件殉難・井伊家供頭)
    

         ―その他関連資料をご紹介します― 
 
井伊美術館
平成27年特別展
会期 平成27年2月1日~平成27年11月15日迄
いずれの世界にも「正」と「奇」があります。極端な言い方をすれば「正統」と「異端」です。たとえば一般的に筋兜や星兜のついた具足はいわゆる「正」であり、変わり兜や仁王胴等の具足は「奇」ということになります。
今年度はリクエストの多いその正と奇のヨロイカブトをとりあげ、ユニークな視点をもって紹介し、甲冑武具考証専門「井伊美術館」ならではの展覧会としたいと思います。

(上)吉田松陰辞世
   『歴史ハンドブック 花燃ゆ』より

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小桜威大鎧-都城島津男爵家伝来-

紺糸威仁王胴具足